イントロが始まります。
ピアニストのカウントからサックスとヴァイオリンのメロディー、軽快なリズム。
およそ4回めの成人式を迎えるであろうご夫人がステージでマイクを手に歌い始めた最初の歌詞は・・・
「ノン、ムッシュー。もう私は二十歳じゃないの。」
思わず吹くのをやめて立ち上がって言いそうになります。
「知っとる」
私の気持ちとは裏腹に曲は続きます。
なんでも、カフェで声をかけてきた男性にたいして、
・もし二十歳だったらあなたの言葉についだまされてついていったかも。
・二十歳の頃はラブレターもいっぱいもらった。
・しかし大人になったから、あんたみたいな男に興味はない。
との内容です。
ちょっとナンパして来た人をここまでコテンパンにやっつける必要があっただろうか・・・と思いながらエンディングのメロディーになります。
”ノン・ムッシュー、もう私は二十歳じゃない”
イントロが始まります。
軽やかな三拍子のイントロから歌手の語りに入ります。
なんでも母子家庭の小さな男の子。
ママが入院しているようです。
大好きなママに会えるのは日曜日だけ。
男の子は日曜日になると花屋さんでバラを買ってお見舞いに行くようです。
そんなある日、男の子はとうとうお金がなくなってしまいました。バラが買えません。
そして、バラを盗むのですがお店のご主人に見つかってしまいます。
でも、ご主人は優しい人で事情を知るとバラを男の子にくれました。
「あぁ、よかった!」と思いながら間奏の演奏です。
ところが、病院に着いたら看護婦さんからママが亡くなった事を告げられます。
そして、天国へ行くママにバラを捧げるところで曲は終わります。
初めてこの曲を演奏したとき、エンディングを演奏しながら涙があふれて膝まで落ちました。その後の男の子が幸せになったのか心配です。
”白いバラ”
イントロが始まります。
これから徴兵される若い兵士が大統領に「僕は人を殺さない」と訴えています。
そして、人を殺すくらいなら自分を殺すと宣言するのです。
はっきりと戦争に反対する事や政府を批判する凛とした強い歌詞です。
”脱走兵”
イントロが始まります。
どこかのクラブのようです。
その日の一番の見せ物は主人公のストリップとの事・・・。
全てを見た時に、みんなは私がゲイの男であるとわかり笑うでしょうと嘆いています。
しなをつくって馬鹿にするお客の視線がつらいと訴えている。
昼間の仕事はパリで気楽なスタイリストをしている・・・・。
「昼間の仕事頑張ったらどないでっか?」
と言いたくなりながら演奏します。
しかも、病気で寝たきりのお母様と暮らしているのに鳥と亀がペットのようです。
それ、めっちゃ病気を持っているペットの代表ですけど・・・。
でもコミカルに演技しているドラッグクイーンもこんな気持ちだったりするのかな、なんて思ったり・・・
ツッコミどころ満載の気持ちのままエンディングを演奏します。
”人々の云うように”
イントロが始まります。
美しい三拍子のフレーズ。
薄いもやのこめる街・・・
パリの朝もやの風景が歌われます。
そして、転調して明るい昼の美しさ。
そして、夕暮れ。
美しいパリの一日の景色を思い浮かべながらエンディングです。
”パリの空の下”
イントロが始まります・・・・
シャンソンは三分程の短い曲ばかりです。
その中に様々な人生が描かれています。
その描かれ方はとても客観的に事実を淡々と語っていて、観客に受け取り方を託しています。
決して、作詞家の意見を押し付けるものや作詞家の感想や気持ちが述べられていません。
いつもシャンソンのコンサートが終わると、私の中に沢山の人生や歴史、風景が通り過ぎていった感じで何とも胸がいっぱいになります。
シャンソンの仕事に関わるようになってもう20年たちました。
ずっと聞いている名曲、新しい曲、コミカルな曲、悲しい曲、美しい曲、辛い曲、
何度聞いても心に染みてくるものばかりです。
この秋、二つのシャンソンコンサートがあります。
ひとつは今月10月13日の日曜日。
京都文化芸術会館にて、堀内周さんご指導の生徒の皆様の発表会。
堀内周さんは沢山の素敵な訳詞もされています。
本当に説得力のある歌い方でとても魅力的な歌手です。
深みがあるのにクリアな声はいつも演奏しながら聞き惚れます。
もう一つは来月11月17日の日曜日。
こちらは沢山の歌い手さんが出演されます。
場所はRAGです。
私のおすすめは野村エミさんと藤木光さんです。
このライブではサティの「びっくり箱」をサックスで演奏します。
まだシャンソンを聞いた事のない方。
これを機会にちょっと聞いてみませんか?
泣いたり笑ったり、共感したり、ツッコんだり!
終わった後は必ず旅行の後のように思い出がいっぱい心に残ります。