スイスへ行った時の事です。
水の街スイスジュネーブはこんな風景だった・・・・はず。
ホテルで同室だったM先輩が私にのたまう。
「紅ちゃん、夜のステンドグラスが見たいの。」
「昼間はダメですか。」
「夜のが見たいの。」
このM先輩は演奏旅行中ずっと私と同室で、毎朝起きない私を優しく起こし、私の勝手気ままな行動全てに文句ひとつ言わず付き合ってくれている、天使の様な優しい人である。
そんな彼女が初めて自分から希望を口にしたのに、拒否する訳には行きません。
私「でも、教会って夕方しまりますよ。夜は無理じゃないですかねぇ。」
M先輩「一軒ずつ扉を押してまわってたら、どこか一軒くらい限り閉め忘れてるんじゃないかな♡」
なんと、最初から不法侵入計画でした。
天使と思っていたが以外とワルよのう…。などと、感心しているうちに夜が来ました。
普段内気で引っ込み思案なM先輩が、スタスタ夜のジュネーブをスタスタ歩き、片っ端から教会の扉を押します。
鍵が掛かり開かない扉の前でガッカリする先輩と、ホッと胸を撫で下ろす私。
10分程歩き、とある教会の扉が…
開いてしまいました。
「紅ちゃん!入ろう!」
「は、、はい…」
“戸締りしとけ~!”と心で叫びます。
そして夜の教会へ不法侵入しました。真っ暗な教会に浮かびあがるステンドグラスを見て
「キレイ。」と目をウルウルさせて嬉しそうな先輩と、 「うわぁ、怖~…」と腰の引ける私。
ビビる私をよそに先輩はウットリしながら、祭壇の方へ歩いて行きます。
先輩をみながら、祭壇に目をやると…なんと床の一部が持ち上がり地下へ降りる階段が…
しかも、そこからは灯りが漏れて何やら大人数で唱えているような呪文みたいな声が聞こえてくるではありましぇんか!!!!
心臓がヒューっと縮みあがりました。
ヒソヒソ声で先輩を呼ぶと、先輩が振り返ったその瞬間、足が椅子に引っ掛かったのか、
ガタガタ!!
っと激しい音がしてしまいました。
途端に地下の呪文は消え、地下の階段から人がバタバタと駆け上がって来る音が‼
その時の私の気持ちをネコで表現するとこうである。
にゃおー!!
まさに総毛立つとはこの事。
全身の毛が逆立ち声にならない叫びが出ました。
慌てて先輩の手を掴み、一目散に外へ走ります。
必死で教会を出て、小径を抜け人通りの多い大通りを走っていると、後ろから先輩が叫ぶ。
「紅ちゃん!紅ちゃん!」
捕まったのかと、振り返ったら以外に冷静な表情のM先輩が言いました。
「こういう時はね、知らん顔して人混みに紛れた方がバレないのよ。」
内気で引っ込み思案な先輩の腹黒い一面を頼もしくすら感じたジュネーブの夜でした。
しかし、私はジュネーブに何しに行っていたのでしょうか。
演奏したのでしょうか。
演奏のついでに遊びに行ったのでしょうか。
チーズフォンデュ食べたのでしょうか。
時計屋さん見たのでしょうか。
他のジュネーブの記憶が一切有りません。
この演奏旅行について記憶のある方はご一報お願いします。